急変・・・迷走神経反射・・・

 自分が勤める介護老人保健施設では、リハビリや介護を要する高齢者が入所されています。

 このような高齢者は、普段元気そうに見えても次の瞬間にはグッタリ(=急変)している場合があります。
常に入所者の方と接しているときは、入所者の方お一人お一人の顔色や反応など一般状態を観察する必要があります。


 先日も自分の施設では一番元気だと言われていたKさん(88歳、女性、介護度2、軽度認知症)が急変されました。
 リハビリ室のトイレで、急に座り込むようにして倒れ込みグッタリとして反応が無くなったとの事でした。
報告を受けストレッチャーを押しながら「なぜKさん?」と思いながらリハビリ室へと急ぎました。

 リハビリ室へ駆けつけると、Kさんは顔面蒼白、口唇チアノーゼが認められ力なくグッタリとリハビリ室の長椅子に寝かせられリハビリを担当していたスタッフがKさんに呼びかけながらバイタル測定をしていました。

 脈拍微弱で40/min、血圧触診(最高血圧)80mmHg、SPO2(血中酸素飽和度)80~85%、
意識は痛み刺激に顔をしかめる程度、直ちにストレッチャーへKさんを移し体を横向きにして気道を確保、酸素投与しながら併設病院へと搬送します。

 搬送中、意識や呼吸状態を観察するためKさんに声かけをすると徐々に反応がアップしました。


 病院の処置室へと運び込むと、自分たち看護師は気道確保を確認すると同時にバイタルを連続的に監視するためモニター(心電図、血圧、SPO2)装着します。
心拍50~60/min、血圧90/51mmHg、SPO2 85%

 医師は全身状態を診察しながら「酸素2リットル流して、ハルトマン(点滴の商品名)でルート確保、採血、頭部CTに心電図ね」など看護師に検査や処置の指示を出します。
看護師は、手分けして医師の指示に従ってKさんの状態を観察しながら検査の準備や処置をおこないます。

 Kさんに酸素マスクを装着、ルート確保(点滴)のため、血管に針を刺し点滴の管を固定しながらKさんを観察すると、Kさんの顔にほんのりと赤みがさし、意識も徐々にはっきりとしてきてモニターが表示しているバイタルは心拍66~70/min、血圧110/58mmHg、SPO2 100% ほぼ正常値へと戻っていました。

 一連の処置がおわり、意識を無くし倒れた原因を調べるため頭部CTを撮るため検査室へと向かう頃には、Kさんの意識状態も完全に回復し「私なんでここ居ると?」、「なんで、お医者さんばかり居らすと?」と周りをキョロキョロ・・・・
「Kさん、トイレに行ったあと倒れて分からんように(意識を無くしたから)なったから色々検査しよると」とKさんに声かけしますが、「へぇ~私がそんなになっとった?」と狐にでもつままれたような表情をしています。


 約10分後、頭部CTを撮り終え再び処置室へもどり心電図をとりおえるとKさんの意識はすっかり戻り、特に症状の訴えもなく、頭部CTも異常ありませんでした。

 医師が倒れる前のことをKさんに確認すると、レクの途中トイレに行きたくなったがそのまま我慢していたが、どうしても我慢できなくなりトイレへ行き排泄を済ませ、手を洗おうとしたときに分からなくなったとの事でした。

 症状が落ち着いたことを確認した医師は、「酸素止めて30分状態観察ね、異常なかったら帰室していただきましょう」と次の指示を出します。

 酸素を止め、医師が「Kさん、どうもトイレの我慢しすぎで倒れちゃったみたいですね、色々検査しましたけど、頭とか心臓は特に悪いところありませんでした」、「これからもう少しここで休んでもらって異常なかったらお部屋に戻りましょう」と説明、Kさんも納得したように頷きました。

 
 Kさんをモニター監視しながらカルテに記録をとり医師に病状の確認をすると、Kさんが倒れた原因は、『排泄による迷走神経反射』ということでした。

 モニター監視してから30分後、バイタルには特に異常なく無事、Kさんの自室へ戻ることとなり、用心のためその日一日は安静となりましたが、翌日から再び元気にレクレーションやリハビリに復帰されました。


 迷走神経反射とは・・
 迷走神経は代表的な副交感神経の一つです。副交感神経は心拍や血圧を低下させる働きがあります。 
 ストレス、強い痛み、排泄(特に我慢していたとき)腹部内臓疾患などによる刺激が迷走神経を通して、脳幹にある血管運動中枢を刺激し心拍数の低下や血管拡張による血圧低下などを来す生理反応のことです。
この迷走神経が過剰に刺激されると血圧低下を来たし失神することがあります。

 Kさんの場合、医師が説明したようにトイレを我慢しすぎ一気に排泄した事により迷走神経が過剰に刺激され血圧や脈拍の低下が起こり失神したというわけです。

 「たかが、トイレの我慢しすぎで気を失った」・・・と笑い話になりそうな事ですが、自律神経が弱っている高齢者では発見が遅れると命取りになるので侮れません。
 また、成人でも自律神経が弱っていたり、余りにもトイレを我慢してトイレで一気に出した直後(頑固な便秘で下剤を使用したり、自己腸洗浄のときには特に注意!)、失神ということもあり得るそうです。 
 そうならないためにも、普段からトイレに行きたくなったらすぐにトイレに行くようにし、便秘を予防する規則正しい生活を心がけましょう。


 因みに、健康診断や献血の際、針を刺したとき急に倒れる人がいますが・・・
実はその原因もこの迷走神経反射によるものです。

この記事へのコメント

2007年03月05日 00:24
こんばんは、気ままさん。
ドキドキしながら読ませていただきました。
Kさん、ご無事で何よりでした。ふぅ...
ところで、私の家にも、同居のおじいちゃん(クキ父の父)がおりまして、今年80歳になります。とても元気ではあるのですが、高齢ですので、気を付けないといけませんね。
トイレの我慢のしすぎでも、このような症状が起こることがある、なんて、初めて知り、驚きました。
勉強になります!ありがとうございます。
2007年03月05日 21:31
クキさん、今晩は。
「トイレの我慢しすぎて失神とは・・・」Kさんの治療に当たった医師の説明を聞いたとき本当に驚きました。(^_^;)
余談ですが、男性が排尿後に”ブルッ”とくることがありますが、一説にはこの”ブルッ”も迷走神経反射と関係あるのではないかと言われているそうです。
2007年03月06日 19:18
この度は当ブログへのご来訪誠にありがとうございました。

私もストレスでなったりしそうな予感が・・・。お世辞にも精神状態は良好といえないので。それでは、今後とも宜しくお願いいたします。
2007年03月07日 21:14
オーミヤさん
よくドラマなどで、あまりのショックに気絶してしまう。これも精神的ストレスによる迷走神経反射にあたります。
こちらこそ、今後とも宜しくお願いします。
2007年03月08日 21:51
あっしのブログに起こし頂きまして・・・、感謝です。
あっしの母親は医療介護施設に4年間お世話になり、昨年2月、89歳の天寿、全うしました。
施設の職員の方の、お仕事の大変さを、身を持って知らされました。 大変な肉体労働ですね?  入院中は、あっしの兄弟、家族が、頻繁に見舞いに行って、職員の方が、こんなに、しょっちゅう、見舞いに来てくれる患者さんは、いませんね?・ と、驚いておりました。

家族の見舞いが何よりの、治療だと、思います・・。
2007年03月09日 12:04
読んでいて、はっは~あ と思い当たる患者さんたくさん居られました。
なるほど、該当する人がこんなにたくさんいることを今 実感しました。
 ありがとうございます、これからもこういった具合に 事細かく解説していただけるとよく分かります。
 私が夜勤明けで帰った後に救急車で入院された方でトイレに歩いていって 用を足した後に転倒することたびたび といった患者さんが、2日後の早朝突然に亡くなられて みんな驚いていました。
 あまりの変わりように言葉もなく。
今週だけで20名もの患者さんの移動があってシーツ交換や荷物の整理に追われていて、患者さんを観察する時間すら取れない状態が続いています。
 こんなに毎日 患者さんを動かす必要があるのか疑問です。
 みんなの気持ちの中に余裕がないと事故の基なのに。
 師長の心には、お金が目の前にちらついているのでしょうか
2007年03月09日 21:51
お師匠さん
師匠が仰るとおり、家族の面会が何よりの薬となりますね。
どんなに自分たちスタッフが頑張っても御家族にはかなわないと思わせる事が多々あります。
師匠のお母様は、御家族や御親戚の方が頻繁に面会に来てくれたのでとても幸せだったのではないかと思います。
2007年03月09日 22:00
ひこうちゅうねんサン
自分の記事がお役に立てて嬉しいです。
これからも、このような事例を取り上げていきたいと思います。
そうですね、業務ばかりに追われて自分に余裕が無くなると事故のもとになりますよね。
自分の施設でも、ギリギリの日勤者で業務にばかり振り回されて肝心な入所者さんの観察を忘れそうになることあります。
お上の人たちに”経営面ばかり見るのではなく、現場をもっと見て!!”って言いたくなります。
2007年03月09日 23:54
こんばんわ。
先日は、コメントありがとうございました(^-^)
こちらは初めておじゃましたのですが、
大変、興味深い内容が書かれていて、勉強になりました。
さすが看護師さん。
現場の様子がよくわかります。
ちょくちょく遊びに来させていただきますね。
2007年03月10日 22:35
ふくだサン、ようこそ!!
興味深く読んでいただきまして有難うございます。
介護ネタでは施設でのエピソードを中心に紹介していこうと思います。
今後ともよろしくお願いします。

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