救われたかもしれない命・・・・

 ピーポー ピーポー ピーポー

 今日も自分の施設横にある併設病院には、けたたましくサイレンを鳴らし救急車が入ってきます。

 救急搬入口で待機する医師に看護師・・・・

 救急車が搬入口に横付けされました。

 運ばれてくる患者さん(50歳位、男性)は心肺停止の模様で既に救命士の手で口には呼吸を助けるためのチューブを挿入され人工呼吸と心臓マッサージが施されていました。

 救急車からストレッチャーが降ろされると、点滴片手に心臓マッサージをしている救命士が出迎えている病院スタッフに患者さんの状態を簡単に説明しながら足早に処置室へ運び込まれていきます。


 患者さんが処置室へ入ると、患者さんの心臓や呼吸をもう一度、蘇らせようとあらゆる治療が開始されます。

 点滴の管に強心剤を注入し、口から挿入されている管には人工呼吸器を装着、心臓マッサージも医師や看護師それに患者さんを運んできた救命士までもが協力し交代しながら休むことなく続けられます。

 心肺蘇生を続けながら繰り返し強心剤の投与を繰り返しますが一向に患者さんの心臓は動き出そうとしません・・・・・・

 入室から1時間近くが経ち・・・ その患者さんは帰らぬ人となりました・・・・・・・・・。




 それから、数日後。

 この患者さんの治療に当たっていた医師がカルテを整理しながら嘆くように言いました。
「この患者さん、家族の人が気道確保さえしていれば助かったかもしれないね・・・ 残念やねぇ・・・」



 というのも・・・・

 この患者さん(Iさん)は自宅で勤め先に出ようとしたとき、急に意識を失い仰向けで倒れました。
Iさんの異変に気づいた家族はIさんに呼びかけましたが、反応がなく大きないびきをかくように力なく倒れ込んでいるだけ・・・・
 
 慌てて、家族は119番し救急車を要請するも、なす術もなくIさんに呼びかけながら見守るだけ・・・・
しばらくして、Iさんが突然嘔吐。家族は驚き、反射的に口の周りに着いた嘔吐物を拭き取りオロオロしながら救急車を「まだか、まだか・・・」と不安げになりながら待つだけ・・・・・。
(Iさんの自宅は市街地から離れた集落のため一番近い消防署からサイレンを鳴らした救急車でも20分近くかかりました)

 救急隊(救命士)がIさんに接触したときには、仰向きに倒れたまま口の中には嘔吐物が詰まっていて既に呼吸も停止し心臓も殆ど止まりかけていた状態でした。
 すぐさま駆けつけた救命士が口の中にある嘔吐物を除去し気道を確保、心肺蘇生(心臓マッサージ・人工呼吸)を開始。受け入れ先の病院へ連絡を取り医師の指示を受け、呼吸を確実に行うための気管挿管、病院に到着後すぐに薬剤投与が出来るようルート確保のため点滴が救命士によって行われ、救急車の中で心肺蘇生を受けながら病院へと向かいました。

 しかし、救命士による応急処置や病院での治療の甲斐もなくIさんは帰らぬ人となってしまいました。



 もし、Iさんが倒れたとき家族が応急手当を知っていたなら・・・・
    家族の手により気道確保が行われていたなら・・・・・
      (Iさんの体を仰向けのままにしておかないで、横向きにしていたら)
                もしかして・・・最悪の事態は避けられたかもしれません・・・・・。

   
 最近では、消防や赤十字社の啓蒙活動や高齢社会、ボランティア活動への関心が高まっているなど社会的背景により市民レベルでの「応急手当」が普及しつつありますがまだ十分だとは言えません。

 日本では急病人(特に脳卒中が疑われる人)は
   「病状が悪化するかもしれないから 何もするな!」という動かすな!神話が広まっていました。
 しかし、その神話は大きな間違いなのです。


 急に倒れ意識を無くした人は、突然吐いたり、舌を支えている筋肉が緩み舌が咽に落ち込んだりして気道(のど)を塞いでしまい窒息を起こしやすい状態になります。

 そのため、まず気道の確保を行うことが一番大切なのです。

 気道の確保は、体ごと顔を横に向けるだけでOKなのです。
体ごと顔を横にしておけば、吐いたものが口の外に出るので窒息する可能性が低くなりますし、舌が咽の奥に落ち込んでしまうことを少しでも予防することが出来ます。

 それでも、突然倒れた人を動かすのは恐いと思われる人もいると思いますが、安心してください。脳卒中で倒れた場合でも体を横にするくらいでは病状を悪化させることはないからです。むしろ、気道を確保せず窒息させる事の方が余程悪いのです。

 もし、あなたの周りの人が突然倒れ、意識を無くしたとき躊躇せず体を横に向け気道を確保してあげましょう

 周りに居合わせた人たちが、この簡単な応急手当(気道確保)を行ったか否かで倒れた人の予後を大きく左右します。
つまり、救急車で真っ先に駆けつけてくれる救命士達の専門的な応急処置より病院での本格的な治療よりも、現場に居合わせた人たちの応急手当が最も大事なのです。

 
 周りの大切な人が倒れたとき、風前の灯火となった命の火を消してしまわないためにも、誰もが正しい応急手当の知識を持ち実践できるようになればと思います。

この記事へのコメント

2007年04月09日 00:45
こんばんは、気ままさん。
以前に読ませていただいた気ままさんの記事、BLSヘルスケアプロバイダー 、迷走神経反射、それから高齢者の水分補給、そして今回の気道の確保について..... いつもとても勉強になります。ありがとうございます。
私の周りにも、同居の祖父をはじめ、多くの高齢者の方がおります。 いつか、もしこのような事態になった時には、知識が生かせるよう、日ごろから心構えしていようと思います。
2007年04月09日 16:31
「気まま」さん、こんにちは。
家族が応急処置を知っていれば救えた命ですねぇ。ましてや倒れているところを見ているなら…、残念。「気まま」さんの言うとおり、その場に居合わせた人の対応でその人の生死が決まるといっても過言ではないです。
 当院でもCPR普及チームが発足し事務、栄養価、看護師、ヘルパーを問わず月2回の講習会を開催していく事になりました。その場に誰がいようと発見者が直ぐに対応しないと間に合わない事を伝えていきたいです。
2007年04月09日 23:14
お久しぶりです(^^;;
どーるますたーです。

気ままさんの記事はいつも為になりますです。
僕も気ままさんの記事を読んでなければ、この方の家族と同じで、救急車が来るのを待つことしかできないでしょうから。。
「気道の確保」、記憶に刻んだです。
2007年04月10日 21:41
クキさん
自分の記事がお役に立てて自分も嬉しいです。

一度、研修の際に救急隊員(救命士)の方と話をする機会がありましたけど、心肺停止した患者さんを扱った中でも”周りの人が気道確保さえしていれば助かった”(心肺停止に陥らずに済んだ)と思われるケースが少なくないそうです。
現場で活動している救命士さんの話を聞いて意識を無くした人にとって『気道確保』がいかに大事かと言うことを実感しました。
2007年04月10日 21:49
GAKUさん
GAKUさんの病院ではコメディカルも含めてCPR普及チームが発足ですか、羨ましいです。
自分が努めている施設や併設病院でも同じようなCPRチームが発足すればいいと思いますが・・・。自分が勤める施設ではAEDの使い方さえも看護・介護職以外の職員は殆ど知らないのが実情です。(悲しいことですが・・・)
2007年04月10日 22:11
どーるますたーサン
どーも、お久しぶりです。
意識を無くした人に対しての「気道確保」は簡単に誰でも出来る最も重要な応急手当です。
気道確保のやり方はいくつかありますが、一般の人が簡単に出来る気道確保は、本文に書いているように”体ごと顔を横向きにすること”これが一番ではないかと思います。
2007年04月12日 22:52
昨年、「脳梗塞」・・で、4年間、闘病の末、亡くなった母親。

昼食を、届けに行ったら、「トイレに行きたいのに、足が、動かない」・・と、座ったまんま。

以前から足が弱って、シルバーカーに頼って歩いていたので、「足の筋肉の弱体化」・・と、思い、係り付けの診療所が、終わるのを待って、往診してもらいましたら・・・。
(約、半日後)

「脳梗塞」・・・の診断で、即、救急車で、入院。

母親の訴えの時・・即、救急車、手配していれば、「軽症」で、済んだんでしょうが・・。

残念ながら素人のあっしには、そこまでの判断は出来ませんでした。

入院先も、転々としましたが、どこの病院、養護院でも・・真剣に「リハビリ」・・は、してくれませんでした。

結果・・、患者の意欲が、極端になくなり・・「おしめ」・・、流動食・と、悪い方向へ、悪い方向へと・・・、流れるばかりで・・。

年寄りを抱える家庭の人間は・・、事前に勉強をして「予備知識」・、学ぶ必要が、ありますね??
2007年04月12日 23:01
倒れた当時・・、あっしは、「自宅で看病を・・」・と、言いましたが・・・。

かみさんと、兄嫁は・・「それは、無理! 」・と、老人専門の施設に、収容しました。

でも・・・結果的には、それが「正解」・・でした。

「寝たきり老人」・・自宅で看病するのは・・、自営業の・・あっしの家では、到底無理な事でした。

その替わり・・、「金銭的な負担」・・・は、大変なものです!。

幸い・・母親自身の「蓄え」・・で、4年間の、治療費、入院費・・賄える事が、出来ましたが・・。

これが、もし・・兄弟三人で負担する事になったら・・、底辺な負担でした。

毎月、14~5万円の、入院費用を4年近く、払い続けたのですから・・・。

色々・・・考えさせられる問題です。
2007年04月13日 22:26
師匠さん
そうですね、在宅で介護が必要な人を看るというのは、家族の労力を必要としますし必要な医療がすぐに受けられない事もありますね。(この辺、地域格差があるようですが・・・)

それに、医療費の削減に政府は躍起になっているようですが・・・どうも、お国のお偉いさん達は財政面のことばかり頭が行って、高齢者(患者さん)の事はあまり考えてくれていないようです。
これから、お国の弱いものイジメ(自分たち現場で働く医療者や高齢者、患者さんに対して)がより一層激しくなるようです。
本当に、お国の考えには憤りを感じずにはいられません。詳しくは後日、記事にしたいと思います。
2007年04月14日 21:01
そうだったのですね・・・。周りで広く周知されておることが本当に正しいとは限らないのですね。私もこれを見て万一の時に備えておきたいものです・・・。
2007年04月15日 20:48
オーミヤさん
本文にも書いていますけど、人が意識を無くしたとき最も大切なのは気道の確保。これが一番です。逆に言うと気道の確保さえしておけばとりあえず安心ということです。
救急現場で真っ先に駆けつける救命士の方も言っておられましたが”気道の確保さえしていれば助かったのでは”というケースがよくあるそうです。
2007年04月20日 23:18
地域によって違うのですかねぇ?
北九州市在住ですが、救急車が到着するまで、電話の向こうから、心臓マッサージとか、人口呼吸法とか、すべき事を支持があると聞いていますが・・・?
2007年04月21日 22:27
nonさん、ようこそ!
現在では何処の消防署でも電話で口頭による応急手当の指示があるようです。
しかし、救命士の方の話では多くの場合は通報者が動転していて実際、指示通りに応急手当が行われることがすくないそうです。
やはり、救命講習を受けるなど普段から応急手当のやり方を知っておくのが大切だと思います。
み!
2007年06月11日 14:51
はじめまして!
YohooでBLS検索していて見つけました。
AHAのBLS-INST、ACLS-INSTをしています町医者です。
BLSやACLSを始めた動機が、
この「救われたかもしれない命」の記事で、
気ままさんが書かれている事そのもので、
共感しコメントさせていただきました。
バイスタンダーがBLSを行うことは、
救命の9割を占めると思います。
BLSの技術より心が動かないとできません。
しかし、心が動いても勉強をしていないと体と頭は動きません。
心、体、頭を人の命のために動かす勉強が、
BLSやACLSだと思っています。
医療関係者ではなく一般の方に受講していただき、安心な社会になるようがんばっています。
是非、BLSを受講してみてください。
突然、失礼しました。

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